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第71回日本口腔衛生学会・総会

共催セミナー2

共催セミナー2 (協賛:株式会社松風)

「歯科医師&歯科衛生士、皆でともに熱く語ろう令和のペリオドントロジー」

講師 久保庭雅恵 先生(大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座予防歯科学)

 ヒトの口腔内には500種以上の細菌が生息しており、「マイクロバイオーム(細菌叢)」を形成しています。これらの細菌群は、菌と菌との間のさまざまな相互作用により互いに影響を及ぼしあい、さらには宿主体内環境からの影響も受けつつ、細菌集団としての構成バランスを変化させます。細菌叢のバランスの乱れは「ディスバイオーシス」と呼ばれます。腸内細菌叢のディスバイオーシスが種々の全身疾患に関与していることが近年数多く報告されていますが、歯周病もまた、ディスバイオーシスによって引き起こされる混合感染症なのです。
1998年、Socranskyらは、32種類の菌を一斉解析できる方法を用いて、口腔マイクロバイオーム解析解析をおこない、歯肉縁下マイクロバイオームにいる菌の歯周病原性の高低にもとづいて歯周病菌ピラミッドを作成し、それぞれの階級をさだめました。その中で、最も病原性の高い3種の歯周病菌Porphyromonas gingivalis, Tannerella forsythia, Treponema denticolaは、「レッドコンプレックス」と名付けられ、ピラミッドの頂点に配置されました。これらレッドコンプレックス3菌種は、最新のメタゲノム解析による報告でも、歯周病患者さんの歯肉縁下バイオフイルム中で顕著に増加することが確認されています。また、ディスバイオーシスをおこしている歯肉縁下バイオフイルム中で、最も活発に遺伝子発現している細菌がP. gingivalisであることも報告されています。
 さらに、最新の研究により、非外科歯周治療に対する反応が良好だった部位と反応が悪かった部位で治療前のマイクロバイオームに大きな違いはなく、ともにレッドコンプレックスの比率が高い(ディスバイオーシスの)状態であった一方、治療でレッドコンプレックスを減らすことができた部位では歯周ポケットが改善し、減らすことに失敗した部位では深い歯周ポケットが残り予後不良となったことが報告されています。このことから、特定の細菌種を標的として減少させることで、ディスバイオーシス状態の細菌叢をもとの健康な細菌叢にもどし、疾患の治癒を促す具体的な方法を検討する必要があると考えられます。
このランチョンセミナーでは、最新のペリオドントロジーについて解説したのち、歯科衛生士の腕の見せ所である非外科歯周治療と長期管理によるレッドコンプレックス制御法についても、いくつかご紹介させていただく予定です。